学びと交流を深める!『第46回八重洲塾』開催レポート
テーマは「SDGs:持続発展可能な農業・食品産業に向けて」
「素敵な未来農林水産業への、架け橋」を目指す、株式会社アグリインキュベーターが主催する「八重洲塾」では、SDGsの問題解決について最先端で活躍する方々を講師に招き、新しい時代の姿を模索しています。
2022年前半の八重洲塾では、「農産物および食品の輸出」についての勉強会を行います。人口減少社会に突入した日本において持続可能な農業・食品産業を考えたとき、「輸出」は不可欠といえます。第46回八重洲塾ではイチゴの輸出への取り組みをされている国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構(以下「農研機構」) 九州沖縄農業研究センターの曽根一純氏、果実の輸出に取り組みをされている株式会社日本農業 代表取締役CEO 内藤祥平氏よりご講義をいただきます。
曽根一純氏:「日本産イチゴの輸出拡大を強力に後押しするスマート高品質生産・出荷体系の構築」
日本からのイチゴの輸出は2001年ごろから始まり、この20年で輸出量は大きく伸び2021年で1776トン、金額にして40億円となり、政府は2025年には86億円まで伸ばすべく政策を進めています。その一方で、農業生産や食品流通における環境負荷低減も世界的な大きな流れとなっており、曽根氏が所属する農研機構ではスマート農業技術を用いながら、環境負荷低減を実現するための実証事業を進めているといいます。
日本産のイチゴを世界へ輸出するため、「日本産のイチゴの強みを生かしながらスマート技術を活用し、輸出に対応した環境負荷低減型の栽培体系モデルを作っていくこと、それによって市場を作っていくこと」を目指す取り組みを、曽根氏は紹介しました。
・二酸化炭素の効率利用
「二酸化炭素は多収安定生産の中で非常に大きなキーワードになっており、いかに効率的に施要するかが(中略)大きなキーワードになっています。今までハウス全体に撒いていた二酸化炭素を、イチゴの群落内だけに高濃度に撒くことによって効率的に利用していく技術で『局所適時CO₂施用』と呼んでいます。(中略)したものです。その違いは局所施用の場合、少々サイド換気が開いていても二酸化炭素が漏れず、高濃度が維持できることです。ですから、天気がいいときは光合成能力が高く、炭酸ガス濃度を高く炊ければ高濃度の二酸化炭素が効率的に撒けるというのが局所施用の大きなポイントです」
・肥料の効率施用
「高設栽培の中で排液量の中の肥料濃度をモニタリングすることで効率的に肥料を施用していく技術があります。だいたい15万円程で実装できる装置になっており、それにより潅水量や肥料がちゃんと効いているかの見える化が可能になります。農家さんにとってはそれを可視化することで、肥培管理の効率化を図ることができるようになり、非常に増収効果も得られています」
・調整作業の効率化
「イチゴの労働時間というのは10aあたりだいたい2000時間から2500時間です。その中で大きく占めているのが収穫作業や調製作業のパック詰めです(中略)パック詰め作業ロボットをうまく使い、より効率化を進めていこうというのも今回の大きなキーワードです(中略)結果的にはロボットと人との共同作業をうまく進めていき、選果の中の傷みの評価は人がやりながら、粗選別をロボットでやることで効率的に従来の人だけで行うよりも3割くらい効率化しながら進めていくことを阿蘇の方で実証試験を行っています」
・運送中の傷みの軽減
「従来の平トレイと、新しく開発した『ゆりかーご』という傷みが軽減できる容器を使って輸出試験を行いました(中略)明らかにエアと比べると船便は積み替えのときは大きな振動ある程度あるものの、温度のムラや振動が非常に少なく輸出ができることが分かりました」
最後に曽根氏は「新しい技術を農家や関係者へ伝えることも1つの大きな柱」と語り、スマート農業に関連する技術への関心を促しました。
内藤祥平氏:「日本の農産業が世界で戦うためには」
内藤氏は自身がCEOを務める株式会社日本農業について紹介したのち、日本の農産業が世界で戦うために向き合うべき「人口減少にともなう国内マーケットの縮小」「日本の農業の武器である知財がビジネスにつながっていない」という2つの課題について語りました。そのうえで、「日本の強み」について次のように語りました。
「アジアで見たときにフルーツのマーケットは非常に伸びています(中略)日本はそういった国にアクセスしやすい地理的に良い状況にある所が1個目の好機ですね。さらにいくら伸びているマーケットがあるとは言え、全く競争力のない商品しか作れない産業であれば、なかなかそこにチャンスがあるとは言いづらいですが、日本では、研究機関をはじめ個々の農家さんの品種開発や生産のレベルが非常に高いです」
株式会社日本農業が栽培段階、選果・梱包段階、販売段階で手がけている、日本産農作物の海外展開の取り組みを紹介したのち、日本の農業が世界で戦うためには「メガプレイヤー生産企業の台頭」「海外生産の拡大」が必要だと解説します。
「世の中こんなにお金が余っているにもかかわらず、結局どこに投資すればいいのか分からないなど、『品種・技術』『生産オペレーション』『販売』『ファイナンス』の4つが分断されすぎてしまって結局かみ合った連携がうまくできていないことが日本の農業の課題だと思っています。ゆえに我々としては、ここでメガプレイヤーが大規模にやって行くことが非常に重要だと思っています」
「海外展開をアグレッシブにしていると2つの懸念があるといわれています。1つ目は品種が流出するのではないかというリスクへの懸念です。2つ目が日本からの輸出品と競合してしまい海外生産すると日本から輸出が全くなくなってしまうのではないかという懸念です。しかし、我々としてはこの2つどちらもノーだと思っています」
最後に、トヨタ自動車の生産データを例に挙げ、海外生産の重要性を力説しました。「これは日本を代表する企業であるトヨタのデータです。今の最新だと海外の方が2倍生産しています。ここから分かるように、海外生産を行う方が日本に与えるポジティブな影響は大きいですし、産業として海外生産というものは目を背けられないものです。実際にやるといろいろなことがあると思いますが、ここにチャレンジする会社は非常に重要だと思いますし、我々もその中で頑張っていきたいと思っています」
質疑応答の時間では、ファシリテーターの曽根氏・内藤氏の講演内容を踏まえた鋭い質問が多くが寄せられ、議論のいっそうの深まりを感じられました。
八重洲塾の名前の由来
現在は東京駅の東側を指す地名となっている「八重洲」。
この地の名は、江戸時代に通訳として徳川家康に仕えたオランダ人「ヤン・ヨーステン(1556-1623)」の屋敷があったことに由来しています。
ヤン・ヨーステンを生んだオランダは、日本が見習うべき農業大国であり女性の社会参画が積極的な国としても知られており、文化発展の礎となったこの地で「女性の活躍」や「農業」学びを発展させていきたいという想いをこめて『八重洲塾』という名前をつけました。
(主催:株式会社アグリインキュベーター、共催:一般社団法人未来農業創造研究会、協力企業:イオンコンパス株式会社・マイファーム株式会社・イーサポートリンク株式会社)
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