学びと交流を深める!『第38回八重洲塾』開催レポート
テーマは「SDGs:つくる責任、つかう責任」
「素敵な未来農林水産業への、架け橋」を目指す、株式会社アグリインキュベーターが主催する「八重洲塾」では、SDGsの問題解決について最先端で活躍する方々を講師に招き、新しい時代の姿を模索しています。
2030年までに小売や消費レベルで、世界全体の1人当たりの食料廃棄を半減させ、生産・サプライチェーンにおける食品ロスを減少させることが掲げられているなか、38回目となる今回は、食品ロスについて学び考えていきます。東京農業大学名誉教授で日本有機資源協会会長、および日本土壌協会副会長を務める牛久保明邦氏をお招きし「食品ロス削減と食品廃棄物等の再生利用」と題して講演いただきました。
牛久保明邦氏 :「食品ロス削減と食品廃棄物等の再生利用」
日本の食料自給率は37%と先進国のなかでも非常に低く、これを2030年までに45%まで向上させる目標を国は掲げています。その課題解決一環として、またSDGsの実現に向け、循環型社会の形成を目指すなかで注目されているのが食品ロスの削減です。食品資源の利用主体には、「食品関連事業者(事業系)」と「一般家庭(家庭系)」の2種類があるとしたうえで、牛久保氏は国内における食品ロス・食品廃棄物削減には食品関連事業者や消費者の協力が食品ロス削減に不可欠だと語ります。
「事業系および家庭系食品ロス発生量の割合を見ていただきますと、事業系の食品ロスが324万トンで全体の54%に対し、家庭系の食品ロスが276万トン、46%、合計で年間600万トンになります。(中略)家庭系の食品ロスの発生量の内訳ですが、食品ロス276万トンのうち44%が食べのこし、直接廃棄が35%、過剰除去が21%となっています」
「事業系食品廃棄物中の食品ロス含有割合は、食品製造業が約80%の食品廃棄物を出しているのにも関わらず、実質的に食品ロスとして出している廃棄物の量は39%となっています。ところが外食産業を見ていただきますと、外食産業は廃棄物として215万トンのうち、116万トン(36%)が食品ロスとなっており、食品製造業と拮抗しています。3番目の小売も20%近く出していることから、消費者が介在する場面において、食品ロスの排出量が多くなっていることが見て取れます。ですから外食産業そのものが努力しても、消費者の協力を得ないと食品ロスを減らすことは難しいと言えます」
削減のためには消費者や一般家庭の協力
国連のSDGsの目標12のターゲット12.3では2030年までに小売・消費のレベルの食料の廃棄を半減することを目標としています。国は、2030年までに事業系食品ロスを273万トン家庭系では2216万トンまで削減する目標数値を設定しています。2018年度の発生量からは、事業系では54万トン、家庭系では約60万トン削減が必要で食品関連事業者を含め消費者ともに国をあげて目標を達成するために努力することが必要で、事業系では「商習慣の見直し」、家庭系では「常備食品の管理」がです。
食品関連事業者が「商慣習を見直すためには、次に示しますような三つのカテゴリーを三位一体で推進することが効果的になります。その第一は納品期限の緩和であり、第二に賞味期限表示の大括りが考えられます。賞味期限というのは長い期間ですので、年月表示や日まとめ表示、例えば月の上中下旬や十日間括りなど、いずれかの賞味期限の表示をお願いできないかと言うものです。さらには賞味期限の延長も第三として考えられます。品質的な問題がクリアできますと、賞味期限が防腐剤等や化学薬品等を使わなくても延長できる技術は当然開発されていますので、そういったものを加味して三位一体で推進していくことが重要だと考えています」
「そして家庭において特にお願いしたいのは、各家庭にある常備食品の管理になります。購入食品のレシートを冷蔵庫に貼り、食べたものから消していくなど、さまざまな工夫によって食品ロスの防止が可能となります。計画的な買い物や食べ切り、過剰につくらないということ、期限表示の理解、これらをどのように浸透させていくかということが課題となっています。食品ロスの実態をご理解いただきながら削減、実態把握、そしてSDGsの目標達成のために、ご協力いただければと思います。」
食品廃棄物の再生利用方法
また、食品廃棄物をいかにして再生利用(リサイクル)していくかという問題についても、単に再生利用することを考えるのでは不十分で「無作為に出てきてしまったものを再生利用するのではなくて、なるべく最小限にとどめた廃棄物をどう再生利用するかという考え方」に基づくべきと指摘した牛久保氏は、食品廃棄物の主な再生利用手法として、飼料化や肥料化の具体的な方法の他、食品廃棄物などを発酵させて産生されるメタンガスの活用についても解説しました。
「メタンガスは太陽光や風力などと同様に、再生可能エネルギーとしての利用も可能です。有機物を燃焼させ、そのエネルギーを利用する際に、CO2が大気へ放出しないような利用方法が再生可能エネルギーで、その一つにメタンガスの利用があります。
具体的にはメタンガスを直接燃焼して熱利用するか、またはコージェネレーションと呼ばれる発電装置を用意しておけば、電力としての利用も可能となります。また、メタン発酵装置があれば災害時などにより電力・熱供給が途絶えても2,3日はガスが発生し続けるため、ライフラインが復活するまでの間の利用も可能となります」
食品廃棄物を肥料化することで、地球温暖化防止にも
牛久保氏は、食品廃棄物をリサイクルし肥料として使うと化学肥料の削減につながり、さらには農業生産を豊かにし、地球温暖化の防止にもつながると言います。
「与えた化学肥料は全て植物が吸い上げていきますので、化学肥料だけでは土壌が有機物を貯留できなくなり土壌が疲弊していきます。従って、土壌へ有機物も加えてあげることが非常に重要になります。(中略)有機物があれば肥料を保持できる能力が増加することにより、生産力が上昇します。
さらに、土壌中には炭素を保持することにより資源循環する能力が上がります。ですから、土壌中に有機物が施用されると微生物が有機物を餌として食べることによって、分解されて肥料として供給できれば、化学肥料の削減につながります。さらには土壌環境の改良および生産力を高める働きをし、CO₂が発生するタイミングを先延ばしすることが可能となります」。農地へ堆肥等の有機物を施用し、土壌の炭素貯留量を増やすことによってSGDsの目標2「飢餓をゼロに」および目標13「気候変動に具体的な対策を」に貢献することになります。
最後に牛久保氏は、食品廃棄物の再生利用の堆肥化と土づくりの重要性について次のように語りました。
「食品廃棄物は循環資源としてたい肥化して、土壌中の有機物として供給することによる土づくりを行うことによって、生産の場を豊かにし、地球温暖化の防止のために、炭素貯留能力を発揮した土壌をつくっていくことが非常に重要です。これこそが本日のお話の主題になります」
八重洲塾の名前の由来
現在は東京駅の東側を指す地名となっている「八重洲」。
この地の名は、江戸時代に通訳として徳川家康に仕えたオランダ人「ヤン・ヨーステン(1556-1623)」の屋敷があったことに由来しています。
ヤン・ヨーステンを生んだオランダは、日本が見習うべき農業大国であり女性の社会参画が積極的な国としても知られており、文化発展の礎となったこの地で「女性の活躍」や「農業」学びを発展させていきたいという想いをこめて『八重洲塾』という名前をつけました。
(主催:株式会社アグリインキュベーター、共催:一般社団法人未来農業創造研究会、協力企業:イオンコンパス株式会社・マイファーム株式会社・イーサポートリンク株式会社)
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