学びと交流を深める!『第27回八重洲塾』開催レポート
技術革新が進み、目まぐるしく変化する世の中で、既存の価値観が大きな転換を迫られています。これからの未来は瑞々しい価値観を持った人たちと次代の若者が担ってゆくでしょう。「未来農業への懸け橋」を事業コンセプトに掲げる株式会社アグリインキュベーターが主催する八重洲塾では、食や農業の分野において、SDGsの各項目のゴールとどのように関わり、貢献できるかをSDGsの専門家を招いて学び考えていきます。
(共催:一般社団法人未来農業創造研究会 協力企業:イオンコンパス株式会社・マイファーム株式会社)
テーマは「SDGs:農業×故郷(ふるさと)を活かす」
SDGsは地球環境や経済活動、人々の暮らしを持続可能とするためにすべての国が2030年までに取り組む行動計画で、気候変動対策など17の目標からなっています。 27回目となる今回は、株式会社和香園代表取締役社長の堀口大輔氏、FARMSIDE works代表で阿部梨園マネージャーの佐川友彦氏、株式会社アグリインキュベーター代表取締役社長の藤井滋生氏の3名の講演から、地域創生とSDGsの取り組みや知見から、学び考えていきます。
堀口大輔氏:「地元創生アグリプレナーを目指して」
鹿児島志布志市でお茶の製造を行う「鹿児島堀口製茶有限会社」と、販売を行う「株式会社和香園」を経営する堀口大輔氏。72年前に祖父が始めた事業を代々受け継ぎ、堀口氏が事業を引き継いで今年で2年目になるといいます。現地の茶畑の写真を紹介しながら、「大隅半島を舞台にお茶を通じて農業を再産業化する」という堀口製茶グループのミッションを語る堀口氏は、製茶業界の課題を踏まえ、お茶をどのようにライフスタイルに合わせていくかという視点で事業を進めているといいます。
ペットボトルのせいでお茶がだめになっているわけではなく、ペットボトルのお茶がなければもっと早い段階でお茶はダメになっています。それだけ、一番茶で急須で入れる需要がシュリンクしています。加えて、お茶以外の飲み物が多様性が増しています。いま日本で一番売れているのは「水」「炭酸水」で、それに続いて「コーヒー」があり、そのあとに「お茶」という順番です。ペットボトルとかティーバックとか、簡便に飲めるお茶があるおかげで残っている状況です。お茶以上に他の飲み物が売れているので大変だということですね。じゃあ、自分たちが何をするかっていうと、「ライフスタイルに寄り添うお茶」。食べるお茶だったり、飲むお茶だったり、ギフトとして選ばれるお茶だったり、急須がなくても飲めるお茶ですね。あとは体験してもらったり、(茶香炉を焚いて)匂いをかいだりする五感で体感するお茶というものを、それぞれのライフスタイルに合わせてやっていきたいと考えています。
製茶とSDGsとの関係性のなかで挙げたのが「IPM」「スマート農業」というキーワード。この2つに加えて「オーガニック栽培」を取り入れ、日本のお茶をグローバル市場に向けて輸出し、国が力を入れている海外輸出茶の原料を多様化に取り組んでいると語ります。
SDGsの流れの中で、必須の要素として「IPM」と「スマート農業」というキーワードが、農業界ではでてきています。IPMとは、農林水産省では「総合的病害虫雑草管理」と定義され、要するに化学農薬だけに頼らないで、物理的防除などにより、環境にやさしい栽培をしようということです。スマート農業とSDGsはどうつながるかというと、人が今まで重労働でやっていた農業を、人が重労働をしなくて済むかとか、効率をよくするのかという要素で入ってくると思います。(中略)国としても、今はお茶の輸出に力を入れていて、農林水産省が一丁目一番地と位置づける海外輸出とスマート農業を、私たちの核にしています。その中で緑茶の輸出も順調に伸びていて、昨年度で5000トンお茶が輸出されています。
堀口氏はこれからの目標を次のように語りました。
世界に誇る日本の農業をアグリビジネスとして世界に進出するのが、これからの日本の農業。スマート農業の取り組み、そして(志布志港という港も近い茶の産地)この鹿児島という土地条件が生きてくるんで、これをやっていきたい。
佐川友彦氏:「小さな経営改善から大きくねらう地域農業の存続」
栃木県宇都宮市の「阿部梨園」で2014年からマネージャーを務め、経営管理や経営企画、経理会計、人事労務などに加えて、ブランディングやPR、接客販売などの営業業務も担う佐川氏。もともと社長で3代目となる阿部英生氏の家業として、個人経営で営まれていた「阿部梨園」を改革し、お客様とのいい関係を直売によって築く良さを残しつつ、旧態の経営スタイルを底上げし、次世代に繋げる経営改善に取り組んでいることで広く知られています。
阿部梨園での経営に携わるまでの自身の経歴を紹介したのち、インターンとして阿部梨園に参加したときに感じたときの思いを次のように語りました。
現場をいろいろ見せてもらって手伝いながら関わってみて、いくつか感じたことがありました。1つは「業務効率をもっとよくできるな」。人の動線がぐちゃぐちゃだったりとか、これとこれの置き場所逆だったらもっと仕事楽になるのにとか、(中略)みんな朝から晩まで梨取って一生懸命販売してるんですけど、もっとスマートにできるんじゃないかなっていうことを感じました。
2つ目が、梨づくりにずっと意識を注いできましたので、それに対して経営の部分はちょっとおろそかだなと。それが非常にもったいないなと。「このあと成長を目指すのならリスクだなと」と感じました。
3つ目が、代表の阿部が責任感のある人間で「俺が代表だから全部決めなきゃ」と即決でやってきたんですけど、もっと時間をかけて選択肢を洗い出してみたら、またはいろんな意見を取り込んで相談しながら決めたら、もっといい判断ができるかもしれないなと。「チャンスを逃しているな」と思ったんですね。業務効率、経営体質、意思決定、この辺はまだまだ改善できそうだなっていうことを感じました。
インターン期間で、「100の業務改善」を目標に掲げた佐川氏。わずか250時間のインターン期間で70の改善を達成しましたが、当初掲げた100の改善ではとても数が足りないと悟り、その後3年間業務改善を続け、500件の改善を実施します。そしてその改善事例を他の農家にも公開するプロジェクトを開始。クラウドファンディングで出資を募り生まれたのが「阿部梨園の知恵袋」です。このWebサイトには300件の事業改善事例が無料で公開されています。阿部さんは数々の経験を踏まえて、次のように農家の抱える課題を指摘しました。
阿部梨園だけが出来てなかったわけではなく、目の前の仕事に追われる人手が足りない農業の現場、または農業に限らず、少人数の小規模経営だとどこでも起こりうるあるある話ではないかなと。農業界で今、ITがとか法人化がとか、いろいろな進化の筋道を探っている状況ですが、ちゃんとこういう足元の課題を解決しないと向上も何もないんじゃないかなと思います。これが農業界の乗り越えるべき壁の1つなんじゃないかなと。
藤井滋生氏:「2030年の日本農業」
藤井氏からは、この日の堀口氏と佐川氏の講演を受けながら、これまでの八重洲塾での講演者の事例を交えて、農業における海外事例や国内の先進事例を紹介。ラグビーワールドカップでのラグビー日本代表の活躍のキーファクターを取り出し、強いチーム作りの重要性とそのポイントを語りました。 農協は本来のあるべき農業組合の姿とは全く変質した姿になていて、これは問題だと思います。だから早く会社化するべきだと思うし、地域活性会社化するべきだと思います。(中略)佐川さんが言われたような新しいマニュアル化というようなルール化というか、そういった小さな改善運動というのをキチッと行って、本当にチームになっていく。佐川さんのやられていることは、ひょっとしたら日本の農業そのものに対するチームづくりかもしれないなと思って聞いてました。 農業は間違いなく命の産業であるし、多様な価値を持っています。これからは農業への投資の時代が来てるんだと感じます。One team というか one the earthというか、いろんな人たちが努力した結果、形になってきたのが(ラグビーワールドカップでの)今回のベスト8だったんだろうと。そんなことを思っています。 講演後に行われた質疑応答の時間では、「SDGsの視点での、土壌管理や生物多様性に向けた独自の取り組み」「地方におけるSDGsの取り組みと認識状況」「AIやIOTの進歩によって、サラリーマンが農業を兼業することが可能か」といった質問が堀口氏と佐川氏に寄せられ、参加者はその回答に興味深く耳を傾けていました。
八重洲塾の名前の由来
現在は東京駅の東側を指す地名となっている「八重洲」。
この地の名は、江戸時代に通訳として徳川家康に仕えたオランダ人「ヤン・ヨーステン(1556-1623)」の屋敷があったことに由来しています。
ヤン・ヨーステンを生んだオランダは、日本が見習うべき農業大国であり女性の社会参画が積極的な国としても知られており、文化発展の礎となったこの地で「女性の活躍」や「農業」学びを発展させていきたいという想いをこめて『八重洲塾』という名前をつけました。
(主催:株式会社アグリインキュベーター、共催:一般社団法人未来農業創造研究会、協力企業:イオンコンパス株式会社・マイファーム株式会社・イーサポートリンク株式会社)
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